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最高裁判所第三小法廷 昭和50年(行ツ)15号 判決

上告人 山菱不動産株式会社

被上告人 日本橋税務署長

訴訟代理人 岡田武夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人竹内一男、同山口鉄四郎の上告理由について

ある会社と他の会社とがいずれも同一の個人の支配する同族会社であつて、一方が他方に対し、無利息ないし通常の金融取引におけるより著しく低率の利息で金銭を貸付けた場合には、特段の事情がない限りその貸付が無利息ないし著しく低率の利息である点を同族会社の行為又は計算の否認の規定(本件の場合、法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの)第三〇条)に基づいて否認することができるものと解されるのであるから、右貸付をした会社が、実際には同族会社であるために無利息ないし著しく低率の利息で貸付けたものであるのにかかわらず、会社の損益計算上は、税務実務上行われているいわゆる認定利息の取扱いに準じて、通常の金融取引と同程度の利息を未収利息として益金に計上し、その後の事業年度においてこれを貸倒損失として損金に計上した場合には、右貸倒処理は、同族会社であるためにされた不自然、不合理な租税負担の不当回避行為として、同族会社の行為又は計算の否認の規定に基づき、これを否認することができるものと解するのが、相当である。これと同旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 高辻正己 天野武一 江里口清雄 服部高顯 環昌一)

上告代理人竹内一男、同山口鉄四郎の上告理由

原審判決には理由の不備乃至法解釈を誤つた違法がある。

原審判決は、その理由において、「同族会社における行為計算否認の規定に依拠して、無利息ないし一般より低率の利息の貸金については、一般の金融取引と同等程度の利息を計上してこれを益金に算入する取扱(いわゆる認定利息の取扱)が、課税当局を含め税務会計上の実務として行なわれていることが認められ、控訴人が前記のとおり原判決別紙6表記載の未収利息をそれぞれ当該年度の益金に計上したのも、この取扱に基いたものであることが右証言によつて窺うに十分である。」といい、又「同族会社における行為計算否認の制度は、租税の公平負担の原則に由来し、法人税法の適用を受けるべき法人がすべて経済的、合理的な取引活動を行なつているものとの前提に立ち、とかく同族会社に認められる不自然不合理な行為計算による租税不当回避を抑止しようとするところにあるのであるから、控訴人のいういわゆる認定利息が右の趣旨から計上されて益金に算入されたとすれば(それが納税者の申告によると、課税当局の更正決定によることを問わない。)その益金算入はその事業年度における当該法人の法人税の経理として当然理由のある処理というべきであり、このようにすることによつて当該法人はあるべき自然かつ合理人的な経済人として法人税法上容認され、その取引活動を右の経理記帳のとおりのものとして擬制されるのである。」といつて、控訴人のなした本件計七、二五五、六七五円の認定利息の計上自体は、同族会社の行為計算否認の規定に触れる不自然不合理な租税不当回避行為に該当するものと認めていない(むしろ認定利息を計上しなければ行為計算否認規定に牴触することになるとしている。)のにかかわらず、右認定利息の元本である「債務引受等が同じ山本初三の支配する個人会社間の取引でしかも事実上倒産している会社に対するものであることを理由にその全額免除による貸倒損失計上が税負担不当回避の行為計算であるとして改めて否認されたのであるから、その元本債権に附帯する未収利息債権が運命を共にするものとして、同様の理由により損金算入を否定されることになるのは、行為計算否認の制度趣旨と利息債権の法的性質からやむをえないというべきであり、また既存年度における益金算入とかかわりない右未収利息分の損金算入否認の処理は、税法における期間損益計算の建前からも当然の帰結といわなければならない。」と説くのである。

右に摘示したように原審判決が、「その元本債権に附帯する未収利息債権が運命を共にするものとして、同様の理由により損金算入を否定されることになる」理由として挙げる第一点は、行為計算否認の制度趣旨によるというのであるが、それは一体どういう意味なのであろうか。原審判決のいわんとするところは、説明不足で理解しがたいのであるが、そもそも同族会社の行為計算否認の制度が、租税の公平負担の原則に由来し、税負担の不当回避行為を阻止することを目的とするものである限り、その適用は、かかる恐れのある行為計算を対象とするだけで十分である。本件についていえば、元本債権の貸倒処理に限つてこれを否認すれば足りるわけで、原審判決も認めるようにそれ自体は税負担の不当回避行為に該当しない未収利息債権の貸倒処理までこれを否認するのは該制度の趣旨を超えた適用となり、誤りである。経理処理上元本債権の計上とその利息債権の計上とは別個の行為計算であり、元本債権の貸倒処理の否認に伴つて、利息債権の貸倒処理までも否認しなければならぬという不可分的関係は両者間にないのである。又若し税負担回避行為に該当する元本貸付行為に対する制裁としてそれに附帯する利息債権の貸倒れ処理まで否認すべきであるという趣旨であるならば、それは行過ぎである。否認された元本債権の貸倒れ計上行為に対しては税法上加算税、利子税等の不利益が賦課されることになつており、制裁としてはそれで十分であるからである。

原審判決が前掲記の理由として挙げる第二点は、利息債権の法的性質ということであるが、いかなる法規に基くいかなる性質によりそうなるというのか全く説明を欠くので原審判決の考えが不明で、上告人としては、困惑するのであるが、若しそれが利息債権の元本債権に対する附随性を指すのであり、例えば元本のないところ利息は発生せず、前者が消滅すれば後者も消滅するという如き意味合で運命を共にするということを指すのであるならば、それは、承服しかねるのである。同族会社の行為計算否認の制度は、同族会社の行なつた行為計算が実在し、かつ私法的には有効であるにもかかわらず、租税の不当回避を防止するため課税の面においてのみこれを否認して通常の場合のあるべき行為計算におきかえて所得額を算定しようとするだけのもので、例えば元本の貸付行為(およびその貸倒処理)が右規定に触れるということで税法的に否認されたからといつて、それが民法的に無効になるとか、存在しなくなり、従つてその利息債権(およびその貸倒処理)もこれと運命を共にしてしまうなどというものではないのである。従つて不自然不合理な貸付行為であるために通常の場合のあるべき行為計算におきかえて所得額を算定するために元本債権の貸倒処理を否認する場合、不自然不合理な行為ではない未収利息の貸倒処理までも否認の効果を及ぼそうとするのは、制度の趣旨を超えたことで、許されないのである。

原審判決が前掲記理由の第三点として挙げるのは、既往年度における益金算入とかかわりない未収利息分の損金算入否認の処理は、税法における期間損益計算の建前からも当然の帰結であるということであるが、上告人の主張は、ある年度に発生した損益を他の年度の損益として計上しようとするものでなく、既往年度において損益勘定面で益金として計上した認定利息が貸借勘定面において未収利息という資産となつていたものが、当該年度に貸倒れが確定するに至つたのでこれを当該年度の損金として処理したのに過ぎず、期間計算の建前を破るものではないということである。すなわち上告人は、異つた年度間の損益通算が可能であると主張しているのではなく、認定利息の計上が不当な租税回避にならない一つの論根としてその益金算入(従つて課税所得の増加又は欠損額の減少)の事実を主張しているのに過ぎないのである。

原審判決は、本件は、「同族会社が通常の利息の約定でその個人支配の他の会社に貸付をして未収利息を益金に計上したのち、別の年度においてその元利債権を免除して貸倒損失の処理をし、それが税負担不当回避の行為計算として否認された場合と何ら異るところがないのである。」と説く。然り右設例の場合の理論も、本件の場合と全く同一であつて、上告入の主張によれば、貸付元本については、不当な租税負担回避行為として、その貸倒れ処理は否認されるとしても、未収利息の貸倒れ処理は、何等の租税負担回避行為に該当するものではないのであるからそれまでも否認するのは誤りであるということになるのである。

以上の理由により原審判決には理由の不備乃至法解釈の誤りがあり、破棄を免れないものと確信する。

以上

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